美しき願望

 

「そしてお姫さまは幸せに暮らしましたとさ」

 

そう、いつだって物語はそこで終わってしまう

 

  

 

 

 

 

 

夜中にうなされて目覚めたお姫さま

 

隣で寝息を立てる王子の顔に舌打ち一つ

 

 

「退屈だわ、全然」

 

 

思い返すのは不幸だったあの頃

 

 

カフカのベッドもキレイなドレスも持ってやしなかったけれど

 

なんだか生きてる感じがしたわ

 

 

 

 

 

 

世界で一番美しい死体だなんて

 

いっその事吐き出さなきゃ良かったかしら?

 

 

美しいというだけで、受けた数々の暴力と

 

喉を焼くイヤな匂いが忘れられないの

 

 

 

「こんなモノ食べられないわ」

 

 

 

痩せ細った身体を抱きしめて今日も嗤う

 

これで私はきっと大丈夫

 

 

 

 

 

眠れない夜に思い出すのは

 

いつだってあのお姫さま

 

最後まで幸福にはなれなかった唯一のお姫さま

 

声を失って、信頼まで失って、すべて失した

 

 

 

 

 

 

寝言で聞いた他の誰かの名前

 

身を切るような切なさが身体を貫いて

 

その後、きっとあなたは嘲ったのでしょう

 

 

 

愚かな王子を愛した自分自身を

 

 

 

「さあ帰りましょうあの海へ」

 

身を投げて泡と化したお姫さま

 

 

 

 

 

完璧な“悲劇のヒロイン”という称号に焦がれる

 

お姫さま達の妬ましさを一身に引き受け

 

海の藻屑となりましたとさ