美しき願望
「そしてお姫さまは幸せに暮らしましたとさ」
そう、いつだって物語はそこで終わってしまう
夜中にうなされて目覚めたお姫さま
隣で寝息を立てる王子の顔に舌打ち一つ
「退屈だわ、全然」
思い返すのは不幸だったあの頃
フカフカのベッドもキレイなドレスも持ってやしなかったけれど
なんだか生きてる感じがしたわ
世界で一番美しい死体だなんて
いっその事吐き出さなきゃ良かったかしら?
美しいというだけで、受けた数々の暴力と
喉を焼くイヤな匂いが忘れられないの
「こんなモノ食べられないわ」
痩せ細った身体を抱きしめて今日も嗤う
これで私はきっと大丈夫
眠れない夜に思い出すのは
いつだってあのお姫さま
最後まで幸福にはなれなかった唯一のお姫さま
声を失って、信頼まで失って、すべて失した
寝言で聞いた他の誰かの名前
身を切るような切なさが身体を貫いて
その後、きっとあなたは嘲ったのでしょう
愚かな王子を愛した自分自身を
「さあ帰りましょうあの海へ」
身を投げて泡と化したお姫さま
完璧な“悲劇のヒロイン”という称号に焦がれる
お姫さま達の妬ましさを一身に引き受け
海の藻屑となりましたとさ